奏曲/オーヴァチュア




見上げた空は満月。
お父さんが天国へ行ったような気がして
ただひたすらひとりぼっちで泣いていた。

どうすればいいのかわからない。
どこに行けばいいのかわからない。
私を導いていたのはいつもお父さんだったから。


夜が明けてお父さんの墓から離れてどうしようかと考えたとき、
西に沈んだはずの月は私の前に現れた。
呆然として目を凝らしてみると、月は赤いリボンに変わった。

私は何気なくそのリボンを取った。
ふと、お父さんの言葉が耳に残った。



『最後の本家はお前だ』



お父さんはその時に覚悟したのではないか。
本家なんか1000年以上も前からずっと続いている。
絶えたことなど一度もない。
私もいつか結婚して子供が生まれたらその子供は本家の者になる。
なのに、私が最後とはどういう意味なのだろう。
子供を生む前に私は死んでしまうのか。
だって私に兄弟はいない、一人っ子なのだもの。

その時はそう思っていた。
だけど、今は確信できる。


あぁ、お父さん。
お父さんは言いたかったんでしょう?
私に、こう言いたかったんでしょう?



「月葉は滅びる」



ううん、滅ぼす。


そのためにいなくなった母親を捜して、
そのために離れた分家と組んで、
そのために孤独から抜け出せと。

あの分家の人達は生きているのだろうか。
私よりも小さくて人懐っこい子。
私は馬鹿だと思わせて嘲笑した人
私がいるからこんなに苦しいといった人。
私に血を浴びさせて面白い顔をした人。
私へ暴力を振るっては泣き止まない人。
私を殺そうとしてお父さんを殺した人。

私の存在はいらないものだと教えてくれた人。



『私たちは逃げない』



誰かが言っていた。
あれは分家の長女だったか。



『分家はもう手遅れなんだ。闇に落ちたくないのに落とされた』

『実のお父様によってお母様はどこかに消えてしまった』

『分家は手を尽くしている。お母様を捜すことに手を尽くしている』

『お父様も捜している』



その口から出た言葉は矛盾だった。
父親が原因ならどうして母親を探すのか。



『分家にいる7人の子供は皆お母様を捜しているわ』

『それなのに本家はどうなの? どうして母親を捜さないの?』



さぁ。
しらない。

お父さんが捜さなくていいといった。
だから捜さなかった。

別にお父さんとお母さんは仲が悪かったわけじゃない。
でもお母さんは苦しそうな顔をしていた。
平気な顔をしてここにいられない、助けなきゃいけない、といつも謝るように胸に手を組んで祈るように私に語った。

分家は知らない。
分家の母親が私のお母さんを傷つけていることを。
でも私も知らない。
分家の母親は苦しんでいたということ。

思ったんだ。

私の家系は苦しむためだけにあるものなのだろうか。
それならどうして逃げないのか。

逃げたくでも出来ない。
この家系は呪われているから。
逃げようとしても他の家系とは混ざることが出来ないのだから。

私の家系は神の子孫。
神の子孫であるこの家系は月葉。
本家と分家の一部だけ持つ神の力。

私は望まない力を持って生まれたんだ。

すべてを焼き尽くす炎。無に帰してしまう炎。それなのに人を癒す炎。


私は願う。

そして語る。


「月葉の血を絶やす。私でお仕舞いにする」

「私が最後の神の子孫」



覚悟と決意をお父さんの墓と赤いリボンに。


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